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福岡高等裁判所 昭和61年(く)69号 決定

少年 N・K(昭46.11.7生)

主文

原決定を取り消す。

本件を福岡家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、少年の父N・Y、同母N・T子が連名で差し出した抗告申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

その要旨は、少年がこのたび鑑別所に入所したことで生活改善の効果があつたと考えられるし、右入所中に少年から寄せられた手紙によると、少年が真実改心していることが窺われ今後は申立人らが少年を十分監督するので、初等少年院送致の決定を取り消して、少年が在宅のままで更生できる機会を与えて欲しい、というのである。

そこで、所論にかんがみ、本件少年保護事件記録及び少年調査記録を調査し、当審における事実取調の結果をも併せて検討するに、本件非行は、昭和61年1月14日から同年5月21日までの間に、少年が、夜間、原動機付自転車1台ずつ、合計6台を窃取して乗り回したほか、進学先の中学校からステレオアンプ1台を、駐車中の普通乗用自動車内からラジオ等5点をそれぞれ窃取し、また遺失された現金3、000円とギフト券を拾得横領したというもので、窃盗8件、遺失物横領1件の合計9件に達しており、原動機付自転車の窃盗のうち2件は、家庭裁判所に事件が係属した後、調査官の初回の面接の直前や、面接指導継続中に犯されたものであること、少年には、小学校時代にも一時万引が見られたほか、中学1年の後半(昭和59年秋ごろ)から服装違反などの規律違反行為が現れ始め、昭和60年5月から7月にかけてスーパーでの万引が数回見られたこと、その後児童相談所の指導を受けていながら、昭和61年2月ころからはこの指導を受けることを自ら拒み、その前後ころから本件各非行を繰り返すに至つていたものであることなどの点を考慮すると、少年の非行性は浅いものとはいいがたいと考えられ、更に、少年は、昭和60年の夏から秋にかけて、夜遊びや怠学が目立つようになり、以来昼夜逆転したような生活状態が昭和61年7月24日の少年鑑別所入所までの長期間にわたつて改善されることなく続いていたものであり、加えて、少年は、自己本位でわがままな面が強く、不満に耐える力や責任感に乏しく、考え方が未熟で善悪のけじめが弱いことなど、性格上の問題点が少なくないのであり、これらの点を考え合わせると、このまま放置したのでは将来再び非行に走るおそれが高いといえる状態にあつたことは明らかであつて、原裁判所が、少年を初等少年院に送致するのが少年の更生のために最も適切であると判断したことも、一応首肯できないではない。

しかし、少年の非行性は、右のとおり浅いとはいえないが、非行の種類、内容、回数、期間、ことに、少年の非行の多くは原動機付自転車の窃盗であるが、これらはいずれもバイクを自分で運転してみたいがための、比較的単純な動機による犯行であること、家庭裁判所に事件係属後、2回にわたり原動機付自転車の窃盗があつたものの、昭和61年5月21日の非行を最後に、以後同年7月24日少年鑑別所に収容されるまでの間、窃盗の非行はなかつたことにかんがみると、少年の決意次第によつては、在宅のまま改善可能な範囲内にあると見ることができ、怠学を含む生活態度の乱れも、在宅のままでの指導により改善が不可能な程度に達しているものとまではいいがたく、結局は、少年の決意、自覚のいかんにかかつている面が大きいといわなければならない。ところで、少年は、今回初めて家庭裁判所の審判を受けたものであり、これまでに保護観察処分による更生の機会を与えられていないうえ、少年鑑別所における初めての収容体験で強い衝撃を受け、これを通じて、これまでの考えの浅薄さや周囲に対する甘えを反省し、曲りなりに自覚を深めつつあつたことが認められるし、周囲の指導を受け入れこれに従つて更生しようとする決意を強めていたことをうかがうことができ、このような少年の変化は、引き続き少年院に収容された体験によつても、いつそう強化されているものと認められる。他方、少年にはこれまで家出等はなく、生活の乱れは大きかつたものの、家庭の保護領域から逸脱しているとまでは見られず、むしろ家庭を離れがたい気持が強いと認められるのであつて、当面在宅での指導が全く不可能な状況になることも考えがたいし、申立人らの少年の更生に対する熱意、関係機関との協力意思も、これまでの児童相談所の指導の経過等に照らして十分に認められ、更に少年に対する鑑別結果をも考慮すると、少年に対し、在宅の保護処分による更生の機会を与えるか、又は在宅のままで更生可能かどうか相当期間その動向を観察、見定めた後に終局処分を決定するのが相当であると考えられ、これらの措置をとることなく、直ちに少年を初等少年院に送致した原決定は、結局において著しく相当性を欠いたものといわなければならない。本件抗告は理由がある。

よつて、少年法33条2項、少年審判規則50条により原決定を取り消し、本件を原裁判所である福岡家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 永井登志彦 裁判官 小出錞一 谷敏行)

〔参考〕 抗告申立書

抗告申立書

少年 N・K

昭和46年11月7日生

右の少年に対する福岡家庭裁判所昭和61年少第728,2056,2411号窃盗、遺失物横領保護事件につき、少年に対し、昭和61年8月18日言渡しがあった、初等少年院送致決定に左記の理由により抗告します。

昭和61年8月26日

住所 福岡県粕屋郡○○町○○×××ノ×

少年 N・Kの法定代理人(親権者父)N・Y

同(親権者母)N・T子

福岡高等裁判所御中

抗告の理由

一 右少年は鑑別所入所中、父親へ窃盗はしません、規則正しい生活をしますと手紙を送って来ました。

親としても子供を、親元離して生活をさせる事を願望して居りましたし入所の効果もありました。この処置については感謝致して居ります。

二 少年は右の通り改心したのに、どうして少年院に行かなければならないのか(勿論、子供の自分勝手な解釈ですが)改心が真実であればあるほど子供が社会、親に対して不信感を持ち将来をおもねる恐れが多分にあります。

三 つきましては、今後充分な監視監督を行いますので少年が在宅出来るよう、お取り計らい頂きたくお願い申し上げます。

〔参照〕 原審(福岡家 昭61(少)728号、2056号、2411号 昭61.8.18決定)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

本件記録中の少年に関する司法警察員作成の(1)昭和61年3月6日付け、(2)同年7月8日付け、及び(3)同年8月7日付け各少年事件送致書記載の各犯罪事実と同一であるから、これを引用(編略)する。

(適用法令)

少年の上記(1)の非行は刑法60条、235条に、(2)の(一)(二)、及び(3)の各非行はいずれも同法235条に、同(2)の(三)の非行は同法254条にそれぞれ該当するところ、本件非行の動機、原因及び態様や少年の資質、環境、これまでの生活歴・行状、処遇の経過等殊に少年の今後の指導教育について、現段階においては、保護者において有効適切な方策を持たず、少年もまた社会性の発育不足のため、自己洞察力に乏しく、非行に対する反省も皮相的であること、本人が高校進学を希望していることに鑑みると、少年の健全な育成を期するためには、この際少年を初等少年院に中学校卒業時期まで収容保護して基礎的な生活訓練、殊に集団生活への適応性を体得させるなど、専門的な矯正教育を施すことが必要且つ相当であると思料されるので、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条2項を適用して、主文のとおり決定する。

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